歯周病とは
「最近、歯磨きの時に歯肉から血が出る。」
「歯が揺れる気がする。」
「孫に口が臭いと言われてしまった。」
などの状況に心当たりのある方は、もしかしたら歯周病かもしれません。
歯周病とは、歯と歯肉の隙間にプラークが溜まり、歯肉と歯の間の隙間(歯周ポケット)に歯周病菌が入り込んで炎症を起こし、歯を支えている顎の骨を「痛みなどの症状なく」徐々に溶かしていく病気です。進行しても自覚症状が少ないのが特徴です。
日本人の80~90%は軽度から重度を含め歯周病をを患っていると言われています。症状を自覚することがほとんどないため、気づいていない方がほとんどです。気づいた時には「歯がグラグラしている」ということもあります。
そのため、きちんとした歯周病治療をし、定期的な管理により歯周病菌を減らし、進行をくい止めることが大切です。
歯周病が進行するとどうなるか
歯周病と全身疾患について
歯周病はさまざまな全身疾患に影響を及ぼすと言われています。
代表的な疾患として下記が挙げられます。
糖尿病
歯周病は糖尿病と密接な関係にあります。
歯周病の原因菌が血管に入り込むと、血液中の糖分をエネルギーに変えるインスリンという物質をつくりにくくしてしまい、血糖値を下げることができず、糖尿病が悪化します。
そして血管の血流が悪化し、血液が行き渡らず歯周病菌が増えてしまうという悪循環に陥ってしまいます。また、糖尿病をを患うと、炎症が治まりづらくなるため、歯周病も治りづらくなります。
動脈硬化・心臓疾患
歯周病菌が血液中に入り、心臓の血管の壁に炎症を起こして血管が厚く硬くなり、動脈硬化を引き起こしやすくなります。そして血管が狭くなる「狭心症」や、詰まる「心筋梗塞」という虚血性の心臓病のリスクが高まります。
また、心臓の内側の膜や弁に歯周病菌が入り炎症が起こると、心臓の働きが低下する「感染性心内膜炎」になる可能性もあり、心不全につながることさえあります。
誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
気管に入った食べ物や唾液中の細菌に歯周病菌などがついていると、その菌が原因となって肺炎を起こすことがあります。飲み込む力や咳反射が低下しているご高齢の方に多く見られます。
早産、低体重出産
妊娠すると体調の変化と女性ホルモンのバランスの関係にともない歯周病にもかかりやすくなります。妊娠中に歯周病菌が血管内に入り込むと、炎症反応により、子宮筋を収縮させたり、胎児の成長に影響を与えて低体重出産になりやすくなります。
また、普段から歯周病を患っている方は、妊娠中に歯肉が急に痛く腫れたり、痛みが生じたときにも、お腹の中の赤ちゃんのために抗生物質や鎮痛剤の服用は避けた方が良いので、妊娠前からしっかりと歯周病の治療を行なうことが大切です。
歯周病の進行について
歯周病は初期段階ではほとんど自覚症状が現れません。
歯肉に炎症を起こすことからはじまり、次第に歯を支える骨を溶かします。
放置すると歯がグラグラし、最終的には抜け落ちてしまう、または、噛めなくて抜かざるを得なくなる可能性があります。
「歯肉炎」
歯肉が腫れたり歯磨き時に出血したりします。
歯肉のみに炎症が起きている状態ですので、まだこの段階であれば、歯磨き指導や歯石除去、定期健診により元の健康な歯肉まで回復します。
「歯周炎」初期
歯肉の炎症だけでなく、歯を支える骨が溶かされ始めます。
歯肉の出血や、膿がたまることにより口臭が出てくる場合があります。
まだこの時点では痛みなどの症状がないことがほとんどです。
「歯周炎」中期
歯周ポケットがますます深くなり、顎の骨がさらに溶けていきます。
歯がグラつきはじめ、膿が出ることもあります。
急にグラつくわけではなく、長い年月をかけてゆっくり揺れて歯周病が進行してくるので、グラつきにも気づいていない方がほとんどです。
この時点でも、痛みなどの症状がない方は多いです。
「歯周炎」末期
顎の骨の半分以上が溶けた状態です。歯のグラつきがひどくなります。
歯と歯肉の境目から膿が出て口臭がよりきつくなります。
これ以上放っておくと、歯が抜け落ちる場合があります。
歯周病検査の大切さ
現在ご自身の歯を失った経験がない方や、まだ数本の歯を失っただけの方は、
「自分の歯が抜ける」
「自分が入れ歯を入れる」
とは考えたこともない方がほとんどだと思います。
失ってから初めて
「歯の大切さ」「歯周病治療の大切さ」「定期検診の大切さ」
に気づかれると思います。
そうなってからではなく、現時点で1度「歯周病検査」をされることをおすすめいたします。
ご自身の口の中の歯周病の状態はどの程度なのかを把握し、それに合った治療をすることで、
一生自分の歯で楽しく食事ができる可能性が高くなります。
私たち歯科医師、歯科衛生士が、皆さまの「お口の健康維持」「一生自分の歯で生活する」ための
お手伝いをさせていただきたいと考えています。
歯周病治療の流れ
検査で歯周病と診断されたら、「歯周基本治療」を開始します。
まずはご自身で清潔な口腔環境を作れるよう、正しい歯磨き方法を指導いたします。
そののち、スケーリング・ルートプレーニング(歯石除去)を行なっていきます。
噛み合わせの調整、虫歯の治療も同時に行なっていきます。
初期治療が終了したら、もう一度検査をして、再評価を行ないます。
歯周ポケットが深く、続けて改善が必要な場合は、初期治療を再度行なうのか、「歯周外科治療」に移行するのか、今後のさらなる治療計画を立てていきます。
もちろん問題がなればメンテナンスへ移行する場合もあります。
初期治療後、深い歯周ポケットが残っている場合は、「歯周外科治療」を行なうことがあります。
また、顎の骨が溶けて無くなってしまっている場合、歯周組織再生療法であるGTR法や自家骨移植、人工骨移植、エムドゲインを適用し、顎の骨を回復させる処置を行ないます。
ここまで治療を行なった時点で再度歯周検査を行ない、改善が見られたら定期的なメンテナンスへ移行します。
歯周病は再発しやすい病気です。
せっかく時間をかけて歯周病を改善しても、日頃のケアを怠ると再発のリスクが高まります。
またご自身の管理だけではなく、治療が終わった後も定期的にメンテナンスを受けることが非常に重要です。
歯周病治療の期間
基本的に歯肉の改善には時間がかかります。
虫歯の治療とは違い、軽度~中等度の場合は3ヵ月~1年程度を目安とお考えください。
重度の場合は1年~2、3年程かかることもあります。
歯周病の進行度合いや、その他の治療部位(虫歯や噛み合わせなど)、回復の度合いによって、患者さまそれぞれの期間を要することになります。
歯周病の治療方法
歯周検査
歯周ポケット検査
「ポケットプローブ」という物差状の器具を用いて、歯と歯肉の間の溝(歯周ポケット)の深さを調べます。
深ければ深いほど、歯周病が進行しています。
歯の動揺度検査
歯がどの程度動いてしまうか、揺れの度合いを検査します。
歯をピンセット状の器具で押さえ、前後左右に揺らして揺れの度合いを見ます。
レントゲン撮影
歯を支える顎の骨の状態や歯周組織の炎症状態を把握するため、レントゲン撮影を行ないます。
骨密度が低いほど、歯周病が進行しています。
スケーリング
日頃歯磨きをしている部分(歯肉より上の部分)の歯石を取り除き、歯磨きしやすい環境を整えます。
SRP(スケーリングとルートプレーニング)
SRPとは、歯の根と歯肉の間の溝(歯周ポケット)に付着した歯石を細長い専用の器具により掻きだし、表面をきれいにする治療法です。歯周ポケットの深くまで清潔にすることができ、歯の根の表面が平らになることで、虫歯や歯周病の発生率も抑えることができます。
歯周外科治療(歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)など)
歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)は、歯周基本治療(初期治療)であるスケーリング・ルートプレーニングでは取りきれない、深い歯周ポケットの奥に隠れた歯石を徹底的に取り除くために行なう治療です。
歯肉を切開して部分的に開き、肉眼で確認しながら残っている歯石や炎症を起こしている組織を取り除いていきます。
手術をすることによって歯周ポケットはなくなり、歯を支えている骨や歯肉が健康な状態に改善していきます。
歯周組織再生療法(GTR法、自家骨移植、人工骨移植、エムドゲインなど)
歯を支えている歯周組織が破壊されたような場合、そのまま放置しておくと、歯肉に覆われてしまいます。破壊された歯周組織をできる限り元に近い状態に再生させる方法です。
歯周病の進行度合いや個人差はありますが、おおよそ数ヵ月後には、歯周組織が改善します。